スピリチュアル――最近、この言葉にふくまれる内容の幅広さには呆然とします。

筆者はこういう世界から離れて久しいのですが、おそらく現在でも、

「悟りを開きたい」とか「神聖な存在とつながりたい」というものから、

占いや心を整えたり日常を前向きに見直していく、というものまで、さまざまなのではないかと。

また方法論でもハードに心身を酷使する修行みたいなものから、

限りなくライトな雰囲気的なものまであるのだと思っています。

占い、引き寄せ、ヒーリング、パワーストーン,ミュージック……こうしたスピリチュアル的なアイテムを楽しんだり、

ファッションとして取り入れたり、あるいは知的好奇心を満たすために探求するのは、

大いに結構なことだし、信じることも、楽しむことも、もちろん個人の自由です。

ところが、見えない世界の話を根拠にして、他人の性格や人生を決めつける人もいます。

「あなたは波動が低いからうまくいかない」
「その病気は、過去の感情を手放していないから」
「あなたには悪いものが憑いている」
「この話に反発するのは、まだ目覚めていない証拠」

……etc.

この頃は”スピハラ(スピリチュアル・ハラスメント)”という言葉も生まれたようです。

じつに、上に列挙したような言葉は非常にたちが悪いものです。

最悪なのは助言の形を取りながら相手から反論の余地を奪っている点です。

この記事ではそのあたりを掘り下げながら、近代スピリチュアリズムの歴史的な流れに触れて行きます。

じつのところ、近代スピリチュアリズムには、女性が社会的な発言力を獲得するための運動と結びついていた歴史があります。

――かつて女性を解放する力になったものが、なぜ現在では人の自由を奪う道具になっているのでしょうか……

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1848年、フォックス姉妹の事件

厳密に歴史上の”スピリチュアリズム”というと、19世紀に興った欧米の心霊主義運動を指すことになります。

これはつまり、死者の霊魂との交信を信じる運動です。

その端緒のひとつとして名高いのが、1848年にアメリカ・ニューヨーク州で起きたフォックス姉妹の事件です。

この姉妹が”ラップ音”を「霊からのメッセージ」と結びつけたようです(似たようなケースはいくつもあったのでしょうが、文献的にはここからのようです)。

そして、人間側の質問に対して霊魂にはラップ音の数で応答してもらう――そんな形式での”交信”を行い、それをテーマにした”交霊会”を開催し話題をさらいました。

後になって姉妹の側から、ラップ音はトリックで作成したものだと明かしたそうですが、それまでの一連の出来事はメディア(当時は主に新聞など)を通してあっという間に世界中に広まってしまったのです。

姉妹がトリックを使ったかどうかは別にして、交霊会や霊媒の活動が、このあたりから急激に人気を集めるようになりました。

奇しくも同じ1848年に女性の権利を求める(米国初になる)セネカ・フォールズ会議が開催されています。

場所は同じくニューヨーク州――じつにこの地域は当時、かなりリベラルかつラディカルな風潮があり、

女性参政権、奴隷制廃止、禁酒運動、宗教改革といった従来の社会秩序をひっくり返すような運動が盛んに行われている土地柄でもあったのです。

つまり、スピリチュアリズムは女性解放運動と同時に流行した、といえます。

たまたま同時代に併存したのではありません。

というのも、女性解放運動と同時にスピリチュアリズム運動にも参加していた人が多くいて、この二つの運動に思想的・人文的な連携があったことが歴史研究で指摘されているところです。

Book cover about the history of modern spiritualism; vertical Japanese title, pink flower illustration on the left, and a grayscale painting on the right with a yellow highlight box.

”霊の言葉”は”女性が発言する場”だった。

そもそも欧米では19世紀半ばの時点で、女性は現在のような政治的な権利だけでなく、経済的な権利も持っていません。

選挙では投票できない、財産や収入を自分の意思で管理するのも至難

教会の集いや政治集会など、大勢の人前で女性が演説するとしたら、強大な抵抗を覚悟しなくてはなりません。

そんな世の中にも奇妙な例外が存在したのです――霊媒、です。

なにしろ、霊媒である女性は、何を語ったとしてもその内容は「霊が彼女の身体を通して語っている」とみなされるわけで、自分の思想を語っているわけではないのです(TPOはありますが)。

とはいえ、こういう建前がなくては、女性が人前で語ることは難しかったのです。

そして、霊媒というポジションにいれば、聴衆を集めたり、その前で社会問題について語ったりできるだけでなく、報酬も得られるようになりました。

Book cover titled'超常現象大全' with a 4x4 grid of icons and Japanese subtitle about mind readers and psychics. Author name at bottom (Japanese text).

現代の感覚だとにわかには想像できない構造です。

それでも、自分の名で自由に発言することが許されなかった女性には、霊媒という迂回路を使わなければ、社会進出がかなわなかったのです。

歴史学者アン・ブローデは著書『Radical Spirits』で、初期の女性権利運動とスピリチュアリズムが密接に結びついていたと論じています。

女性参政権運動家の側からも、スピリチュアリズムは女性の平等を認めた数少ない宗教運動として評価されていました。

Cover of Radical Spirits by Ann Braude: Spiritualism and Women's Rights in 19th-Century America; features a round-table group image and a sepia-toned figure.

ヴィクトリア・ウッドハル|霊媒から大統領候補になった女性

両者の結びつきを象徴する人物が、ヴィクトリア・ウッドハルです。

ウッドハルは霊媒師として活動した後、妹とともに株式仲買会社を設立し、さらに新聞を発行しました。

そこから女性参政権運動へ進み、1871年には、女性として初めてアメリカ連邦議会の委員会で演説しています。

そして翌1872年には、アメリカ大統領選挙への立候補を表明しました。

彼女の主張は、女性参政権にとどまりません。

結婚・離婚を自分で選ぶ自由、労働者としての権利、女性の経済的自立といった方面にも踏み込んでいます。

当時の社会では、考え難いほどに急進的な女性でした。

霊媒として社会に足場を得た女性が、やがて政治の中心へ向かって発言するようになる。

――ウッドハルの人生は、スピリチュアリズムが女性に与えた可能性をよく表したものでしょう。

Person in a lace dress writes with a dip pen on parchment at a desk, with an ink bottle nearby.

新しく作られた”神秘的な女性像”という束縛

ただ、霊媒の立場があったとしても、女性が堂々と発言できた背景には、

「女性は感受性が強い」「女性は受動的」「女性は霊的な存在とつながりやすい」

といった思い込みが前提にあったことは否めません。

つまり、女性の知性や判断力、合理性などは依然として認められてはいなかったのはたしかです。

いつの間にか形成されていた女性についてのさまざまな思い込みはスピリチュアリズム運動を伴って、

女性に力を与えながら、その一方では、

「女性は理性よりも直感に優れている」
「女性には男性にない神秘的な力がある」
「女性は自然や宇宙に近い存在である」

という、新たな女性像を形成します。

これらの言葉の響きは美しく、一見すると女性礼賛のようではありますが、

ドライな表現を使えば「女とはそういうものだ」という決めつけであることに変わりはありません。

女性は家庭から解放されつつ、今度は神秘性の枠のなかに閉じ込められて行く……

じつに、この傾向が現代の女性向けスピリチュアルの世界に残っているのです。

Woman with long pink hair wearing a black visor, sheer cropped top with star shapes, and black high-waisted shorts posing on a city sidewalk.

”女性性の解放”とは……?

現代のスピリチュアル市場で人気のワードに、

「女性性の解放」とか「内なる女神に目覚める」「受け取る力を高める」……

というものがあります。

ただ、こういう方向性が自発的に生まれたものなのか、あるいは必然的に生じたものなのか。

それとも外部から”正解”扱いで与えられたのか。

……前者と後者では、かなりの違いがあります。

前者であるのなら、より自由で自然な方向に向かうひとつの指針のようなもので、”霊的な進歩”とか成長という方向性なら、問題はありません。

しかし、後者の方だとしたら、

女性は本来、受容的である。
女性は愛されることで豊かになる。
女性は論理より直感を信じるべきだ。

などなどの、昔ながらの役割に戻されているだけかもしれません。

一見、女性肯定に見える耳障りの良い言葉だけに問題があります。

女性が社会的に強くなるために、神秘的な特殊能力や特別扱い枠を使う――古代に立ち戻るかのような考え方は、じつのところ多くの女性にとっては迷惑千万な話です。

なぜなら、神秘的資質は女性に必須の条件ではないからです。

むしろ、そのような資質・感性を持たないか、あるいは興味のない女性のほうが多いのではないでしょうか。

現実的な権利を得ることと、女性性に結びつけた霊的な何かは、分けて取り扱う必要があります。

一人の人間として選択し、働き、発言し、理不尽な扱いを拒否できるために、神秘的要素をからめるのは、退歩を選んでいるとしかいえないでしょう。

Book cover on a pale yellow background with a green rounded border; Japanese title reads 'スピリチュアルにつかわれてしまったあなたへ', subtitle about spiritual possession, author 'ルーン魔女 KAZ', and a small sun-like logo at the bottom.

”あなたの波動”に置き換えられるという問題

自分の人生は自分で変えることができる――力を与えてくれる言葉です。

そして、そのための方法論さえもスピリチュアル市場は提供してくれています。

最近の流行は”波動”でしょう。それに関連するものとして”引き寄せ”

今回の記事では、この両者についての深掘りは字数の関係で避けます。

両者とも、問題のある使い方をされている傾向があるし、また多用されすぎて困った事態が引き起こされているので少し取り上げます。

もっとも問題のあるのは、すべてを”波動”に置き換えて(おそらく使用者は還元して)物事を判断する考え方でしょう。

たとえば、

職場で正当に評価されないのは、(あなたの)波動が低いから。
ハラスメントを受けるのは、(あなたが)その相手を引き寄せたから(類は友を呼ぶから)。
病気になるのは、過去の感情を浄化できていないから(*時には”前世”も過去に入る)。
経済的に苦しいのは、(あなたが自分自身に)豊かさを受け取る許可を出していないから(*その理由にブロックが心に形成されている)。

などなど。

これらの言葉は時として相談相手を傷つけるだけのもので、少なくとも励ましではありません。

被害を受けた人に、真理を語るかのように上記のような「すべてはあなたが引き寄せたもの=あなたの波動が低いから=すべてが自己責任」で片づけられては、

苦しんでいる人は、全責任を丸投げされて、さらに責められるのも同じです。

しかも、このやり口は被害者が直面している現実の暴力や差別、病気、貧困その他の、社会的な問題すら見えなくしてしまいます。

Japanese poster about spiritual scams: '15,000,000 yen disappeared', photo of a smiling woman with jewelry, and tips to avoid spiritual fraud.

Red book cover with white Japanese title and author name (Nakamura Keishi) at the top; several white subtitle lines beneath. The lower portion features a dense cluster of green and white Japanese words in varying sizes, creating a bold contrast against the red background.

民間資格でそこまで踏み込んでいいのか

スピリチュアルの世界で発行されている資格は今、どれくらいあるのか見当もつかない膨大な数に及ぶでしょう。

ヒーラー、チャネラー、セラピスト……名称も団体によって様々です。

それら全部が無意味というわけではありませんが、民間資格ではあります。

中には傾聴、守秘義務、倫理、専門機関への紹介といった常識的配慮を厳守し、内容が真面目なものもあります。

とはいえ、民間団体の開催した講座を修了し、そこで資格を得たとしても、それがすなわちその人の能力や専門性を客観的に証明した、とはみなされないのが事実です。

むしろ、みなさない見解の方が、常識的かつ良心的とされるでしょう。

しかし、民間団体が発行する資格というのは大概の場合、わずか数日間のセミナーを受講するだけで手に入るものです。

その後にしかるべき研修期間があるわけでもなく、発行者・主催者がその資格保持者に対して特別な責任を持つこともまずありません(おそらくは、受講の際に発行者・主催者は免責されるように作られています)。

ところが、この”肩書き”を使って、人様の家庭や過去に立ち入り、病気、性格、将来、相性などを断定したり、判断したりする……これは支援ではありません。

根拠が確認できない権威を振りかざす行為で、犯罪の構成要件を満たすこともあり得るでしょう。

Japanese book cover with large white text reading 'それ 犯罪 です!' and vertical subtitle about criminal-law stories; bottom features a man in a suit gesturing with his hand.

東京都消費生活総合センターは、安価な体験セミナーから「力がつけば生活が豊かになる」などと勧められ、100万円近いスピリチュアル講座を契約した事例を紹介しています。

……筆者の知るかぎり、これなどはまだ被害の度合いが”軽微”といえるレベルです。

たとえば民間のドライバーが数時間、自動車の運転に立ち会っただけで、免許証なるものを高額で与えたとします。

その免許証を携帯して公道を走行すれば、露見したときには処罰されます。

もしあなたが、なんらかの施術や相談のために選んだ相手がいる、として。

まずその人の持つ資格や肩書きが、発行した団体以外でも通用しているものなのか。倫理規定や禁止行為は明記されているのか。……そういうところから確認しましょう。

またその手の資格や認定書などに使用されている名称は、医療や心理方面の公的な資格と誤認しかねない、まぎらわしい名前がついていたりします。そのあたりも要注意です。

Bright yellow Japanese book cover with bold white and gray text, showing diverse women and speech bubbles about protecting self-esteem from hurtful words, title includes 言葉の護身術。

Book cover with large red Japanese characters over blue comic-style illustrations and a black caption banner on a white background.

信仰か、”スピハラ”か

スピリチュアルな世界観を使って他人を支配しようとすれば、それは紛れもないハラスメント行為といえます。

”スピハラ”という言葉をよく耳にするようになりました。

別にスピリチュアルにはまっていることは問題にはなりません。

ですが、その信念を使って他者の領域を侵犯すれば、それは立派にハラスメントになります。

じつのところ、この話は先ほどの”あなたの波動のせい”問題とつながるのですが、

「あなたには悪いものが憑いている」と不安をあおる。
病気や被害を本人の心の持ち方のせいにする。
反論されると「波動が低い」と言って話を封じる。
医療や服薬、法律相談をやめるよう求める。
恐怖を利用してセッションや商品を購入させる。

こういった例が”スピリチュアル・ハラスメント”または”スピリチュアル・アビューズ”に該当する、と考えられます。

端的に表現すると「霊的な権威を利用し、相手の自己決定権を奪う行為」のことを指します。

こういった”スピハラ”の最大の問題点は、”あなたの波動”の話と同じです。

つまり、あるテーマについて議論する以前に、いきなり相手の人生に同意もなく踏み込んで蹂躙し、反論の余地を一切与えない一方的なやり口。

……ほとんど強盗に近いわね。

Book cover with pink gradient background and large Japanese title ‘ハラスメント 対応マニュアル’ for practitioners and corporate staff, featuring blue and red circular graphics.

人を自由にしないものはエンパワーメントとはいえない

スピリチュアリズムには、声を上げることを許されなかった女性に、発言の場所を与えた歴史を持ちます。

そして、女性が社会へ出て、自分の人生を自分で決めるための力になりました。

そういう経緯を持つものの帰結が「女性は霊的な存在です」で完結するのは、不適切でしょう。

別に女性は霊的な存在である必要はないし、霊的な存在になる自由もあるし、女性性に従うにも、歯向かうのにも自由はあるはずです。

また、社会的成功や社会的地位といった流動的なものと、本人が持つ”波動の高さ”とどういう関係があるのでしょう?

大金持ちや成功者が波動が高く豊かな心を持っているのだとしたら、そうでない大多数の人たちは、こぞって低い波動と貧しい心を持っているのでしょうか?

そして、その波動を高めたり、豊かさを手に入れるために、民間資格を受講しなくてはならないのでしょうか?

そんな資格を盾にしている人の言動に従わなくてはならないのでしょうか?

……

本当の本当のエンパワーメントは、自分の力を証明するために、他人を服従させることではありません。

スピリチュアルに触れることで、心が整い、人生が少しでも豊かになるのなら、それはその人の大切な何かです。

ですが、それによって格付けを押し付けられたり、責任や使命までも背負わされたり、反論する権利すら奪われたり、苦しみがいたずらに増えるのなら……

そんなスピリチュアルは捨ててしまった方がうんとマシです。

そんなところに、癒しなどありません。ただの、あなたへの足かせ手かせの類に過ぎません。

それを大事にすれば、あなたの人生は”ほかの誰かさん”のために利用され消費されるだけでしょう(その人のことを本当によく知っているのですか? ”表の顔”だけしか見ていないのでは?)

……かつては人を自由にする思想でありムーヴメントだったのです。

それが支配のためのツールに使われはいないか――

私たちは、そこを見極める必要があります。

『他人を支配したがる人たち』の书籍表紙。マニピュレーターの脅威をテーマにした心理学書で、手が人を支配する影を連想させるイメージ。

【フレッツ光】安心と信頼の光回線

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蒼 薫
元作家(スピ系)・経営者です。 物書きのときは、別名を使用していました(封印中)。 ナチュラルスピリットから刊行されています。 フィットネスやアート関係が好きです。 ヨガ・ピラティス・太極拳・筋トレなどやっています。 音楽・文芸特にフリークです。 やたら多趣味です。時間足りないです。 友達、ギリギリ少なく、犬や猫や鳥と暮らしています。