ガールズバンド――この言葉には、”可愛い”や”愛され”めいた響きがあります。
ところが、ガールズバンドの歴史をたどってみると、これは男子ロックバンドとはまた違う、壮絶な戦いの軌跡が見えてきます。
女性が楽器を携え、曲を書き、バンドのリーダーシップを握る。
そして、表舞台に立って商業的な成果を打ち出すことの難しさ、厳しさ……。
この記事では、ロック史を追いながら、ガールズバンドの闘いの軌跡の概要(ごく一部に過ぎませんが……)を描きました。
音楽性やファッション、主張などにも触れています。対象は欧米と日本のバンドです。
※ここでは主に、女性だけで編成されたロックバンドを扱います。
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1960~70年代|「女性でもできる」という証明
欧米での先駆者として挙げなくてはならないのが、アメリカのFanny。

1960年代末期に登場したこのバンド、いまだ日本ではあまり知られていません。
フィリピン系アメリカ人のミリントン姉妹が中心で、ブルース、ハードロック、モータウン風のリズムを融合したサウンドで聴かせる”実力派”です。
その実力のほどは、”女性だけのバンドとして、初めてメジャーレーベルからアルバムを発表した存在”というだけでも十分かもしれません。
当時の音楽業界は彼女たちに”女性らしい”衣装とセクシーさを前面に出すことを要求しました。
ところが、Fannyのメンバーはこれを拒絶し、純粋な演奏力と音楽性で評価されることを望んだのです。
このあたりには、まだロックミュージックが”新しい可能性を秘めた芸術”とみなされていて、今ほど商業主義と密接に結びついていなかったという背景があるのかもしれません。
また、それとは別に、まだガールズバンドの存在が一般に認知されていなかったため、「本当に自分で演奏しているのか?」という屈辱的な疑惑や何かしらの偏見が色濃くありました。
それらを払拭するには、じっさいのライブ演奏で自らの実力を証明する必要があったのです。(*全米人文科学基金によるFannyの紹介)
このFannyとはまったく異なるスタイルで”勝負”したバンドが、1970年代半ばに登場したThe Runawaysです。

ファッション、音楽性ともにパンクロックを先取りしていたといえるこのバンドは、レザー、コルセット、破れた服のほか、下着姿といった挑発的なファッションと生硬なハードロックを前面に打ち出しました。
ただ、このバンドの方向性には男性プロデューサーやメディアによる露骨なまでの”少女の性イメージ”利用の側面が強くあったのもたしかです(当時のバンドメンバーの年齢は、驚くほど”若い”のです)。

現代ならコンプラ的にアウト
センセーショナルな話題に比べ、さほどの成功は収められなかった彼女たちは、いろいろと”業界の大人たち”に利用された感は否めないでしょう。

もうひとつ、挙げておきたいバンドがイギリスのThe Slits。
服装も演奏もより”反美学的”でした。
さまざまな常識や既成概念、とりわけ「女性は美しく・従順でなくてはならない」「女性バンドは演奏力を上げてもっと巧みに演奏しなくてはならない」といった観念を打ち壊すために存在したようなバンドです。
整わないリズムでパンクとレゲエ、ダブを混交させた音楽性も破壊力がありました。

1980年代|欧米では自立へ、日本では大衆化に向かう
1980年代に入り、MTVが登場します。
MTVはロックミュージックを使って大金を稼ぐ装置となりました。多くのミュージシャンがMTVを活用せざるを得ない状況になり、発表される楽曲やアルバムもMTV対応の様式を余儀なくされることが多くなりました。
この傾向はロックミュージックをいい意味でも悪い意味でも、大きく変容させました。
ここでは、”いい側面”に乗じて大人気を獲得したバンドを挙げることにします。
The Go-Go‘sとThe Banglesです。両者ともファッション性こそ違うものの、キュートなルックスのメンバー、とりわけフロントウーマンには魅力的な女性を配置し、自ら曲を作り、自分たちで演奏しました。

MTV全盛時代には、ことさらにポップでスイート、わかりやすい曲調が求められることが多く、時代背景もベトナム戦争の鬱屈から抜けて、前向きなムードが漂っていたこともあり、歌詞もキャッチ―なものが好まれました。
この2つのバンドは、性急なリズムのパンクやガレージロック的な色彩を色濃く持ちながら、それを親しみやすいポップロックへと昇華させることに成功したのです。
The Go-Go’sの『Beauty and the Beat』は、自作曲を自ら演奏する女性バンドとして初めて全米アルバムチャート1位を獲得しました。
このバンドにはTheRunawaysに顕著だった尖った反抗的な態度はありません(メンバーの一人は元ラナウェイズですが)。代わりに、甘い歌声、美しいコーラス、簡素でシャープなギター、そして踊れるリズム――懐古趣味的な色彩は、ロックが捨て去っていた要素に満ちていたのです。
日本ではそれまで、成功を収めたガールズバンドは存在しませんでした(女性のみ・自作自演)。
しかし、80年代に入ってからこのジャンルが大きく花開きます。
対照的な2つのバンドを挙げます――SHOW-YAとPRINCESS PRINCESSです。
SHOW-YAは本格的なハードロック/ヘヴィメタルを演奏しました。
また派手な髪、レザー、ボディコンシャスな衣装をまとい、当時の男性メタルバンドに負けない強さだけでなく、女性としての華やかさを同時に打ち出したのです。
SHOW-YAは1987年、女性ミュージシャンを集めた「NAONのYAON」を開始します。
これは単なる音楽イベントとはいえません。男性中心だったロック業界に女性の演奏場所を作るという、勇気ある試みでした。(*NAONのYAON公式サイト)
対してPRINCESS PRINCESSは、ロックを日常の女性へ近づけた存在です。
覚えやすいメロディー、恋愛や成長を女性自身の言葉で等身大に描く歌詞を、キーボードを含む厚みのある編曲で表現するバンドでした。

1989年には女性だけのバンドとして、初の日本武道館公演を実現しました。
欧米のガールズバンドも日本のガールズバンドも、社会や既成概念、男性、ロックミュージックそのものに、闘いを挑まなくてはならなかったのはたしかで、その闘いは男性バンドのそれとは色合いの違った厳しさを秘めていました。
ただ、海外と日本では闘いにも温度差や傾向の違いがありました。このあたりを簡単にまとめることは難しいので、今回はこれ以上触れないようにします。
1990年代|ライオット・ガール運動と”少年ナイフ”
1990年代初頭、アメリカでライオット・ガール運動が広がりました。
象徴的なバンドは、Bikini KillやBratmobile。彼女たちにはThe Go-Go‘sの親しみやすさは皆無です。
激しいビート、短い楽曲、歌うのではなく叫び、演奏から意図的にムダや装飾を排除しました。
叩きつけるような楽曲の中で訴えるのは、性暴力、差別、身体、女性同士の連帯……。
ここでは高度な技巧よりも「誰かに許可されなくても、楽器を持って表現できる」ことが重視されます。”上手さの基準”自体が男性中心ではないか、と問い直したのです。(*ニューヨーク公共図書館による解説)

同時期の日本で海外で高く評価されたのが少年ナイフでした。オルタナティブ・ロックのバンドです。
カラフルでかわいい衣装、食べ物や動物を題材にした他愛のない歌詞、シンプルなサウンド。
欧米と比べると政治性が薄いものの、少年ナイフの持つ”自由さ”は「女性バンドはこうあるべき(たとえば、強くあること、色気があることetc.)」という観念からも解放されていたのです。
2000年代以降|音楽性で選ばれる時代へ突入
2000年代以降の日本では、SCANDALが制服風ファッションとポップロックで登場し、次第に作詞・作曲やサウンドの主導権を強めました。

その後、和装とメイド服を組み合わせたBAND-MAID、技巧派ハードロックのNEMOPHILA、ラウドロックに原宿文化を混ぜた花冷え。など、音楽と衣装を一体化したバンドが次々と表舞台に立ち、海外でも注目されるようになりました。

ここに来て、日本のガールズバンドは”かわいさ”を捨てずに重い音を鳴らすという、得難い特徴を発揮します。
なにしろ、欧米ロックの世界では、”かわいさ”が警戒される時代に入っていたのです。つまり、”かわいい”というのは、男性側から押し付けてくる記号なのではないか、という話。
ところが、日本の新世代は軽々とその傾向を逆手に取ったのです。
かわいさを前面に打ち出したファッションで、変拍子、高速リフ、驚異的な音域のシャウトなどを駆使し、高度な楽曲を演奏して見せる。落差、ギャップを表現のひとつにしてしまったのです。
また、演奏面での進歩は凄まじいものです。
かつては「女性のくせに弾ける」などと言われた段階は完全に過去のもの。
BAND-MAIDの緻密なリズム、NEMOPHILAのメタル的なシュレッド、SCANDALの歌心のあるアンサンブル――多くのバンドが高い評価を受ける理由のひとつに、「単にメンバーの演奏力が高い」というレベルではなく、「高い演奏力を持つメンバーがバンドという形で融合している」点があります。
現在、ガールズバンドの世界は多様性を持ちながらも、かつて”欧米らしさ””日本らしさ”といわれた特性が混交しはじめた感があります。
たとえばファッションやポップ性を打ち出しつつ社会を語るバンドが欧米で増加し、ジェンダーや自己決定を明確に表現するバンドが日本で増える、といったように……。

「いかにもアメリカですね」みたいな”おじさん的決めつけ”は、もはや通用しないです。
女性もロックができる――そんなことは、ガールズバンドの功績とはほとんど関係はないでしょう。
激しくてもいい、かわいくてもいい、政治的でも、ロマンチックでも、超絶技巧でも、スリーコードでもいい――女性がかつては弱点だった”女性であること”を武器に変え、男性社会の中で、自分の音や表現を、自分の力で選び、世に問うところまでロックを広げたこと。
それこそが、ガールズバンドの現時点での功績といえるのではないでしょうか。







