自衛の手段も法的な知識も放棄して、自宅の玄関や窓を常に全開の状態にする……。

知り合ったばかりの”信頼できそう”な人に実印や暗証番号、パスワードをすべて教える……

――これに限りなく近いことが行われているのが”スピ”の世界かもしれません。

意識や自我を手放しなさい。

そして宇宙とひとつになる!

ワンネスに答えをきくと良いでしょう。

進むべき道がわかりますよ。

”お任せ”で。

あなたの全部を大いなる存在に委ねて。

……最近はこのような発言が、その業界でよく見られるようです。

もはや”宇宙”は、かつての”〇〇霊”のようなオカルト的な用語とすり替えられました。

SFやファンタジーなどの戦後SF・オカルトに染まった経験のある人が指導者層なせいか、

宇宙、というのを神や霊とつなげると、カッコ悪いと直感するのかもしれませんね。

そして天使系統や、あと”ワンネス”がしばしば宇宙を云々する人に愛用されています。

しかし、果たして”ワンネス”の意味その他、深い理解があるものなのか――

ワンネス多用の指導者の言動を見ると、非常に危なっかしいものを感じることが多いです。

まず、ワンネスという言葉や概念は「誰かを都合よく支配するための」ツールやタームではありません。

「すべてはつながっている」というような考え方は、孤独や不安に苛まれている人には、

特殊な魅力を感じさせるものでしょう。

とはいえ、自分の意思や自我が未発達で、他者と自分の境界線すら上手く引けない(自分と他人の区別がついていない)段階の人に、

「自我意識を捨てなさい(そうすれば”大いなる存在”と一体になる・ワンネスを体験できる)」

と思い込むことが、どれほど危険なことか――

この記事では、そのようなワンネスに関する危うさについて解説します。

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ワンネスは”新しい神さま”の名前ではない

oneness は語義としては「一体性」「ひとつであること」を意味します。

スピリチュアルな文脈では一般的に、

  • 自分・他者・自然・宇宙が完全に切り離されたものではなく、相互につながっている
  • ――そんな体験や世界観を指します。

また心理学研究によるとワンネスは、

「世界のすべては共通する原理に基づき、相互に影響し合っている」という信念

として測定されています。

愛と至福のワンネス

しばしばワンネスの体験は、至福感と解放感を伴った劇的な、一種の神秘体験として語られます。

ある人にとっては崇高な宗教体験のようでもあり、

この頃は”宇宙に長期滞在した宇宙飛行士が感じるような”体験とされたりします。

愛と喜びに包まれた無限の幸福感――

この感覚を”脳”だけに還元して、それを人工的に追体験させようとするならば。

――おそらく使用されるものはヘロインでしょう。

”ワンネスからの情報”の危うさ

そしてここからある種の飛躍が生まれるのですが、

どうも”ワンネス体験”をした人はそれから常に”ワンネス状態”を意識的に再現できるようなのです。

というのも、もしも常時ワンネス状態のまま日常生活を送ることは不可能と思われるからです。

そして、どうもワンネスに”再接続”すると、ワンネスのほうから、必要な情報を提示してくれるようです。

……さまざまなスピ系の著書を読む限り、そのように読み取れるケースが多い……。

そして、ワンネスのお告げ通りの言動をすると、何事も解決したり、捗ったりする体験が多く語られます。

筆者はこれとよく似た現象を、主に文献で知っています。

じつは、昔から多く語られており珍しいことではありません。

どういう事例かというと、いわゆる”狐憑き”とか”悪霊に取り憑かれた”状態に酷似しています。

Japanese book cover with a red border on the right, a dark night scene showing people and yellow horses, and large vertical white Japanese title text.
霊力を持つキツネが人に取り付く目的や因縁はなにか そして誰がどのような方法でキツネを祓ったのか 

ある種のスピリット的な邪悪なものに憑依されると、ファナティックな言動に陥るケースも多いですが、

それらの存在は憑依した人物を通して、まことしやかな情報を語ったりもします。

そして、その情報で成功すると、あるとき壮絶なまでの破滅に至ります。

いわゆる”悪魔に魂を売った人間の末路”として、欧米で描かれてきたことが多いものと類似します。

――すべてのワンネス体験者が、この類と断定するつもりはありませんが、

ワンネス方面に関わってそれを得たのだとしたら、その体験者は、

まさかこれくらいの初歩的な知識もなく、そういう世界に深入りしたわけでもないのでしょう……

不可解なワンネス

そしてまた、ワンネスつながりから何らかの未来の情報(予言といえるかも)を得ている人には、

  • ワンネスにお伺いを立てる
  • ワンネスの命令で動かされる

というタイプが少なからず存在しているようです。

まず、どう考えてもワンネスは人格的な存在ではありません……。

また、体験であって、その体験からどうして人格神のようなものが導き出されたのか不明です。

一体性、という抽象概念が意思を持つ高次存在に置き換えられてしまうのは、いかなる経路を辿ったのか。

そして、その存在からの”通信手段”たるや、まだ言語に依存したものなのでしょうか……?

…………ただ、こういう記述をそういう人たちに与えると、彼らはこれをヒントにして、

新しい手法を編み出したりします。あるいは、それをワンネスというのだろうか。

自我を捨てる――その前に自我は育っているのか

まず、ここでいう自我とは、わがままや自己中心性を示すそれではありません。

自分の信念や価値観、責任感その他――

「私はどう感じているのか」「何を望み、何を嫌だと思うのか」「どこまでが私の責任なのか」

そうした重要事項を認識し、最終的な選択を自分で引き受ける働きを指します。

一朝一夕にできる業ではありません。

その人の生きてきた環境、生きる態度、受けてきた教育などをふくめた人生全てのなかで、育まれるものでしょう。

――数日のセミナーや合宿で完成されるようなものでは決してないことは確かです。

いきなり”ひとつ”は麻薬と

ある程度自我が育成されて、自己決定をしっかりとできること。

これはつまり、俗にいう「自分の頭で考える」(他者に流されない)ことだから、簡単ではありません。

でも、それが出来たうえで、ワンネス、というのなら、まだわかるのです。

というのは、まさに自己責任を負える人が自分の意思でそれを選んだのだから。

※心理学の自己決定理論でも、自律性・有能感・他者とのつながりは、健全な発達や心の充足に関わる基本的な欲求とされています。

ところが、そういった”土台”にあたる部分が不安定なとき(年齢や心身の状態など)に、

いきなり自我の放棄を求められると、どうなるか――

  • 嫌なことを断れない
  • 怒りや違和感を「波動が低い」と抑え込む
  • 相手の問題まで自分の責任だと思う
  • 自分の判断より、指導者の“メッセージ”を優先する

などなど。

つまるところ、「主体性が育っていない段階で主体性を育てる手段を放擲する」のだから、

このような傾向に走るのも当然かもしれません。

自我の超越ではなく、また、自己中心性からの解放でもありません。

ただ単に、「言われるがままに他人にすべてを預ける」のと同じです。

冗談ではなく、重度のドラッグ中毒に似ているのです――そのままだと早晩、破滅します。

Book cover featuring a black-and-white photo of William S. Burroughs at a desk, with orange marbled border and Japanese title text.
ジャンキー=麻薬中毒者だった著者がその体験を赤裸々に告白した自伝的小説改訳新組版

”ワンネス教”で最も被害を受けるのは女性

女性は優しくあることや、相手を受け入れる存在であること、また場を乱さないことなどを期待されてしまうし、そのような刷り込みを強く受けています。

そこに”抵抗はエゴ”とか”愛とは無条件”といった教えが重なると(そもそも、どこの誰がそれを明言したのか、少なくとも教示する側は、問われたときに即答できてほしいものです)、

  • 健全で正当な怒りを表明できなかったり、
  • 境界線を否定される(”これ以上踏み込んでほしくない”心の中の線を、平気で土足で踏みにじられる)ことになりかねません。

そうして、”とことん搾取される”側に陥れられます。

近年の研究によると、つらい感情や未解決の問題を、スピリチュアルな考えによって避けることは”スピリチュアル・バイパス”と呼ばれるようになりました。

また2026年に発表された女性を対象とする理論的研究では、

霊的な美徳の名のもとに個人の欲求や心理的境界が弱められる「自己消去」の問題

が論じられるようになりました。

文化的背景の異なる研究を日本女性全体へそのまま当てはめることはできないかもしれません。

しかし我慢や献身という美徳が“魂の成長”に言い換えられる危険を考える手がかりにはなると思います。

Sunset over a calm river with a diagonal line of rocks stretching toward the horizon.

”ワンネス”のもとに上下関係

注意したい傾向に、ワンネスからの託宣が”高いレベル”にあるとされる指導者がいる場合です。

あるいは、その指導者だけがワンネスとつながれる、というケース。

どちらも、指導者のワンネスを背景にした絶対性が設定されています。

「すべてはひとつ、すべては対等」のようなことを唱えながら、あらかじめ”答え”を知っているように振舞う指導者と、

その人からなんらかの教えを受ける参加者――完全な上下関係が作られています(あらかじめ)。

おおむねこのようなグループの中では、疑問を差しはさむことは「エゴの抵抗」、

さらなる講座や集いを断ると「豊かさの拒否」、

教えを受けたのに成果が出ないと「受け取る準備ができていない」、

などの返答が待っています。

――ここで重要なのは、指導者の教えなるものを検証することがほぼ不可能な点です。

※これとほぼ同じ傾向が”霊能者”をトップにするグループによく見られます。この”霊能者”のトピックは、別の記事で取り上げます(現在取材進行中)。

スピリチュアルをもし、”霊性の学び”あるいは正しく”精神性・精神的な”ものとして、その学びに料金が発生するのは、別に問題ではありません。

問題になるのは、その学びの集いを通して、参加者の自己決定・自己肯定感などが健全に育てられるのではなく、

ただ指導者への依存心が深められる場合です。

※また、セミナーの常識的な参加費は、ジャンルは違うといえども通常3000円~8000円が相場です。

その”学びの場”は健全か?|複数の見極めポイント

迷ったときは、そのグループの”現実の運営の状況”を見ることをおすすめします。

現在ならば、複数のサイトからの情報を総合すれば、実情が見えるでしょう。

なるべく”本家”以外のサイトを幅広く拾うのがコツです。そのうえで”本家”サイトと比較しましょう。

  • 自己決定権を奪われないか
  • 断ったり離れたりする自由が尊重されるか
  • 料金とサービス内容が明確か
  • 疑問や批判を「エゴ」で片づけず、対話できるか
  • 本当に自分自身の成長に資する内容か
  • そのグループの広告と会員数が符合しているか(”売れている”といって会員がいない場合あり)
  • コロコロとセミナーの名称が変更されていないか(名称変更で再受講、というケースあり)

健全な支援者は、いつか自分が不要になることを恐れません。また”師”であろうともしません。

危うい指導者は、次の判断にも自分の許可が必要だと思わせます。

自分の教えを最高としたり、いわゆる”ねずみ講”に類した構成をさりげなく取っていたりします。

ワンネスは本来、穏やかな話(体験にせよ、そこから導き出されるものにせよ)だと思います。

スピ的な話題でなくても、「人間は孤立した存在ではなく、自然や他者との関係の中で生きている」という感覚は、

実感であれ理想であれ、育まれるほうが良く、否定されるべきものではありません。

ただし、本当のつながりは個人の輪郭を消すことではありません。

自分と相手が違う人間だと認め、互いの境界線を守るからこそ、支配ではない関係が生まれるからです。

そして、その根元になる”個人の尊厳”を感知する感覚は、おそらく自我の育成を通して育てられるものでしょう。

だから、まずは自我(わがままの意味ではない)を育てることです。

自我を捨てるなら、その前に、まず自分の感情を知り、自分で選び、「嫌です」と言える力を育てる。

そのうえで、自分だけが世界のすべてではないと知る。

この順序が大切なのではないでしょうか。

ワンネスから情報を得なくても、他者とはつながれます。

またワンネスにせよ宇宙にせよ、その他なんらかの神霊にせよ、絶えずその存在と連結して、

その託宣のままに生きることが、本当にその人の人生といえるものなのでしょうか?

私は、そこに主体性を見出せないし、仮に神というものが無条件の愛なるものなら、

決して隷属を強いられるはずはない、と信じます。

自分の意思を持つことは孤独とは関係がありません。

孤独の状態は、それを望まないかぎり、いつまでも続くものでもなく、

またおそらく孤独以外に、人間を強くする状態はないのです。

参考資料

  1. American Psychological Association, “People With a Sense of Oneness Experience Greater Life Satisfaction,” 2019. https://www.apa.org/news/press/releases/2019/04/greater-life-satisfaction
  2. Ryan, R. M. & Deci, E. L., Self-Determination Theory: Basic Psychological Needs in Motivation, Development, and Wellness, 2017. 概要:https://selfdeterminationtheory.org/the-theory/
  3. Patel, M. & Kumar, N., “It helps me cope: a meta-ethnographic synthesis on lived experiences of spiritual bypassing,” Frontiers in Psychology, 2026. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2026.1852417
  4. Patel, M. & Kumar, N., “Spiritual bypassing among Indian women: toward a culturally situated assessment framework,” Frontiers in Psychology, 2026. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2026.1929993
  5. Picciotto, G. et al., “Cross-Cultural Analysis of Spiritual Bypass: A Comparison Between Spain and Honduras,” Frontiers in Psychology, 2021. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2021.658739

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蒼 薫
元作家(スピ系)・経営者です。 物書きのときは、別名を使用していました(封印中)。 ナチュラルスピリットから刊行されています。 フィットネスやアート関係が好きです。 ヨガ・ピラティス・太極拳・筋トレなどやっています。 音楽・文芸特にフリークです。 やたら多趣味です。時間足りないです。 友達、ギリギリ少なく、犬や猫や鳥と暮らしています。