昭和五年に出版された本、ですが…
龍胆寺雄(りゅうたんじ・ゆう)、という作家を知ったのは、趣味の豪華本しか出さない出版社「奢覇都(サバト)館」を立ち上げた、生田耕作の本の中だったように思えます。

その当時、生田耕作の世界がわかりかけていたので、龍胆寺雄にも興味が湧いたものの、
発売されている本は皆無、古書店で見つけても、かなりのプレミア、という状況でした(現在もほとんど変わりはないようだ)。
まだ頭が幼かった時分ですから、
「あー、また、生田氏がド・マイナーな作家を持ち上げているんだな」くらいに思って、スルーしてしまいました。
ところが、その後、龍胆寺の本を読む機会を得たのでした(その経緯は今は省きます)。
タイトルが「放浪時代」。昭和五年(1930年)に出版された作品です。
私は軽音楽もかじったりして、余計な知識が多く、それに毒されていた頃だったので、
「なんか、どうでもいいようなタイトルだな、センスが…」
などと、時代も考慮せずに思い、期待度ほぼゼロのまま、読んだところ…いやはや、驚く、というか、度肝を抜かれた、というか。
☆
清新、モダン、クール、スタイリッシュ……そんな誉め言葉が陳腐に思えるくらいの、素敵すぎる作品で、あっという間に読了し、何度も読み返すようになりました。
おそろしく鋭い感性の作者が、まさに青春時代に書いた作品なのでしょう。
ディテールを少しいじれば、おそらく現代でも余裕で通用するテーマと内容を持つ青春群像劇で、文章・文体自体がキラキラした、まばゆさがあるんです。
大正モダニズムの時代に思春期を送ったのであろう作者の本領発揮なのかなあ…
美しく、はかなく、みたいな。もう、最高、としか。いまだに…。

谷崎絶賛。
その後、入手できたのが、デビュー作にあたる「アパアトの女たちと僕と」。
これがまた、強烈なKOパンチでした。
断っておきますが、タイトルの「アパアト」で、間違っても「四畳半」とか想像しないでください。
「四畳半」でなく、ユーミンの方です(わかる方は、おじさんかおばさん??)。同潤会青山アパートとかを連想してほしい。
これまた、清新としかいいようのない、うるおいのある、美しい作品でした。
しかも、ただ美しいのとは違い、とても上品なエロスというか、色気があり、あの谷崎潤一郎が絶賛した、とのことです。
……しかし、こんな、新しすぎるテーマを普通に描く人が、果たして上手く生きることができたのだろうか…ついつい、そう思ったところ、その不吉な連想は、当たっていたようです。

[中古]放浪時代,アパアトの女たちと僕と (講談社文芸文庫 りB 1) 龍膽寺 雄
不遇の天才…?
龍胆寺雄は、デビュー時こそ華々しかったものの、その後、低迷、というか、ありがちかもしれませんが、かなり気の毒な境遇に陥ったようです。
そのあたりについては、「また聞き」みたいな形で、たまに、誰かのエッセイとかで知ることしかできませんが、どうも、かなり精神を病んだようです。
戦前の文士が心を壊す確率は、かなり高めではあるでしょうが、それにしても、1933年から後、作品数がみるみる少なくなり、そのうち、「サボテンの研究」(観葉植物の)に入り、サボテン関係の本の方が多くなります(ちなみに、これらのサボテン本は、非常に良い内容だと聞いたことがあります)。
それにしても、何があったのか…。

【送料無料】シャボテン幻想/龍膽寺雄
文壇の大御所を怒らせた??
一説には、当時の文壇の大御所である菊池寛を文章で罵倒して、その怒りを買い、執筆の仕事から「干された」のが原因、とも。
大手出版社を経営し、芥川賞・直木賞をこしらえて、文士たちが潤うように、と活躍していた菊池寛を激怒させると、そんなこともあるかもしれませんね。
今でも、そうした構図はどこにでもあって、パワハラには違いないけれど、しっかり行われていますよ、陰湿なパワハラ。
その後、今東光が、菊池に干されて、仕方なく僧侶になったりしましたな…
☆ ☆
龍胆寺の当時の精神状態のヤバさというのは、業界では有名だったらしく、
それがために、「菊池に干された」という話も、龍胆寺の妄想ではないか、とも言われているようです。
あるいは、「龍胆寺妄想説」も、菊池シンパが流したものかもしれません。また、こういう展開が龍胆寺の心にさらなるダメージを与えたことでしょう。
【中古】 毒舌身の上相談 / 今 東光 / 集英社 [文庫]【メール便送料無料】【最短翌日配達対応】
まとめ
それにしても、「放浪時代」と「アパアトの女たちと僕と」という、際立った作品を二つも書けたら、「芸術家」としては、上出来なんてものではないのではないかな…
まあ、それで「食っていく」となると、これまた、めちゃくちゃにハードなのは、アーティスト、クリエイター、いつの時代も変わらないのでしょうね…
今は亡き龍胆寺雄の、初期作品こそ、もう少し広く読まれてほしい、と願う日々です。
アレンジすれば、ドラマや映画にできますわ、現代を舞台にしても!


